会社の破産手続きの流れ
事業が黒字であれば,負債が膨大でも再建の可能性があります。民事再生,会社更生,特定調停,事業再生ADRなど,負債額圧縮や弁済のリスケジュールをするための手続が用意されているからです。
しかし,事業自体が赤字で改善の見込みもなく,営業を継続することそれ自体で負債額が増えてしまうような場合,適切なタイミングで破産手続を決断する必要があります。破産手続は経営者にとっての死刑宣告ではありません。一切を清算し,新たな第一歩を踏み出すための前向きな手続とも考えられます。
当事務所は数多くの会社破産の案件を取り扱っています。破産申立の経験も破産管財人の経験も豊富なので,会社破産に関するノウハウが蓄積されています(所長弁護士は2009年から神奈川大学において「倒産処理法」の講師を担当しています)。当事務所のノウハウをフルに活用して経営者様のスムーズな再出発をお手伝いさせて頂きます。
破産手続の流れは事案によって異なりますが,以下に中小企業の一般的な破産手続の流れを説明します。なお,裁判所によって運用が異なっている部分もありますので,あくまでも参考としてご覧下さい。
★事前打ち合わせ
破産申立のタイミング,申立後の段取りについて打合せをします。
※多くの場合,経営者は会社の債務を連帯保証しているため,会社と一緒に破産の申立をすることになります。この場合,会社の破産手続と経営者の破産手続は同時に進行していきます。
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★受任通知
金融機関,取引先等に,弁護士が破産手続の委任を受けたこと,今後の連絡は全て法律事務所になることの通知書を送付します。以後,一切の債務の弁済を停止します。手形・小切手の支払いも中止します。法律事務所が全面的に窓口になることで,債権者から経営者に対する一切の取立や催促もなくなります。
※借り入れをしている金融機関に受任通知を出すと,その金融機関の預金口座が凍結されてしまいます。受任通知前に残高を出金しておくこと,また,売掛金の入金先口座を変更するなどの対応が必要になります。
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★破産申立
弁護士が破産手続開始申立書を作成し,地方裁判所に提出します。
裁判所は書類をチェックし,破産管財人の候補者を探します。
破産管財人の候補者名簿があり,裁判所はその中から適任と思われる弁護士に連絡して就任の打診します。
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★破産手続開始決定
裁判所はすぐに書類をチェックし,1週間もしないうちに破産手続開始決定(以前は「破産宣告」と呼ばれていました)をします。
※申立日に破産手続開始決定を受けた方がよい事情がある場合,裁判所と申立前の事前協議をして,その日に決定が得られるようにします。
破産手続開始決定と同時に,裁判所は破産管財人を選任します。
※破産管財人は利害関係のない第三者である弁護士から選ばれます。破産手続開始決定があると,破産会社の一切の財産は破産管財人が管理することになります。破産管財人はいわば破産会社の「社長」のような役割を果たすことになります。経営者は破産手続開始決定によって代表取締役としての地位を喪失することになります。
破産管財人は,破産会社の資産を売却するなどして金銭に変えていきます。また,賃貸借契約,請負契約,売買契約などの契約関係を整理するとともに,届出のあった債権の調査を進めます。
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★破産管財人との打合せ
旧経営者は破産管財人の事務所に行って,破産会社の財産等について説明をすることになります。破産手続申立の依頼を受けた弁護士も同席します。
※破産管財人との打合せは1回で終わる場合も多いのですが,数回に渡る場合もあります。
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★第1回債権者集会
裁判所で債権者集会が開かれます。通常は破産手続開始決定から3か月程度で開かれます。
裁判官,書記官,破産管財人のほか,旧経営者,破産手続申立の依頼を受けた弁護士が出席します。もちろん債権者も出席が認められるのですが,通常,出席者は少なく,債権者が1人も出席しない場合もあります。
集会では破産管財人から管財業務の状況が報告されます。
※旧経営者が事情の説明をしなければならないことはほとんどありません。債権者集会は通常10分程度で終わる簡単な手続です。
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★第2回以降の債権者集会
破産管財人が,財産の換価,法律関係の整理,債権の調査などの業務を全て終了していれば,債権者集会は1回で終わりますが,そうでなければ第2回債権者集会が指定され,以後,破産管財人の業務が完了するまで,数ヶ月に1回の頻度で債権者集会が開催されます。
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★配当手続
破産管財人が財産の換価などの業務を全て完了したら,配当手続に入っていきます。配当手続は破産管財人が全て行いますので,旧経営者が協力する必要はありません。
※配当できるだけの財産が集まらなかった場合,配当手続をせずに破産手続が終了します。これを専門用語で「異時廃止(いじはいし)」と呼びます。異時廃止となるのは,破産管財人の報酬(通常は最低20万円),租税債権など一般の債権に優先する債権を支払うと配当できる資産が残らない場合です。
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★旧経営者の免責決定
旧経営者も破産手続をしている場合,配当手続が完了した後または破産手続が異時廃止で終了する頃に,旧経営者の免責決定がなされます。免責決定が確定すると,旧経営者の債務は消滅します。
★弁護士費用
当事務所の破産手続の弁護士費用は,会社及び代表取締役の両方の破産手続を申し立てる場合で最低80万円(税別)となっています。また,破産管財人への引継ぎ予納金が20万円(それ以上の金銭が会社にあればその金銭を予納金として破産管財人に引き継ぐことになります),印紙代等の実費が数万円必要になるので,合計で110万円弱の費用が必要になります。
会社に預貯金が残っていれば,そこからお支払いいただくことになりますが,預貯金がない場合でも,未回収の売掛金等があれば入金されたタイミングで弁護士が受任通知を送付し,支払いを停止することで売掛金等を全額確保することができます。このようにして確保した金銭から弁護士費用をお支払い頂くことになります。
★手続中の旧経営者の生活
破産手続開始決定がなされた場合,その時点で保有している財産は一部を除いて破産管財人に引き渡さなければならなくなります。しかし,破産手続開始決定後の収入は全て自由財産となります。もちろん破産手続中に就職することが可能で,破産手続開始決定後に働いて得た収入は全て自由財産となるので,通常の生活を送ることができます。
破産手続中は,破産管財人との打合せ,債権者集会への出席が必要ですが,それ以外は普段通りに過ごすことが可能です。
旧経営者は理論的には免責決定までは負債を追っていますが,弁護士の受任通知後,破産手続の期間を通じて弁済は一切できないことになっており,債権者から催促が来ることもありません。
★経営者の自由財産
経営者も破産手続をする場合,破産手続開始決定時点で経営者の個人資産は一部の資産を除いて破産財団となり破産管財人に引き渡す必要があります。手元に残せる財産としては20万円以下の預貯金(複数の口座がある場合は合計額で判断),20万円以下の動産,解約返戻金が20万円以下の生命保険契約などです。
法律では99万円までの現金は自由財産として扱われることになっています。しかし,横浜地方裁判所など非常に厳格な運用をしている裁判所では,預貯金と現金は異なるものだという理解を前提として(預貯金は金融機関に対する債権と考えられるので現金と異なるという理屈です),20万円を超える預貯金は破産財団に属するものとして運用しています。破産手続の直前に引き出して現金にした場合には,もとの預貯金としての性質に着目して破産財団に組み入れるか否かはを判断し,20万円を超える部分は破産財団に属するものとして扱います。
ただし,収入がなく生活に困窮するなどの事情があれば,当面の生活に必要な範囲で20万円を超える預貯金も自由財産として認めてもらえる場合があります。弁護士は旧経営者を代理して,裁判所や破産管財人に対し,自由財産の増額を求める上申書を作成します。この書面の作成は弁護士の腕の見せ所といえるでしょう。
★自宅不動産
多くの場合,経営者は自宅不動産を失うことになります。しかし,親族が不動産を破産管財人から買い取ることで,自宅を維持できるケースもあります。
★破産手続の期間
破産手続の期間はまちまちですが,早ければ4か月程度です。破産管財人の業務が長引く場合には1年を超えることもあります。